米国特許法上の小規模事業体に該当する非営利団体について
米国特許法施行規則(37 CFR § 1.27(a))によると、(1)個人、(2)小企業、及び(3)非営利団体は、小規模事業体(small entity)として料金の割引を受けられます。但し、何れの場合も出願人の全てが小規模事業体であり、大規模事業体 (large entity)に権利譲渡やライセンスしておらず、かつ、その義務を負っていないことが条件となります。
「小企業」は関連会社を含めて従業員数が500名以下(13 CFR § 121.802)の企業です。「小企業」に該当するかを判断する際は、関連会社の範囲(13 CFR § 121.103)や従業員の範囲(13 CFR § 121.106)を詳細に検討する必要があります。
本コラムの主題である「非営利団体」は以下の何れかです(37 CFR § 1.27(a)(3)(A)-(D))。
(A)任意の国の大学又は高等教育機関
(B)米国の内国歳入法第501条(c)項(3)号*に該当し連邦税が免除されている団体(第501条(c)(3)団体)
(C)米国の何れかの州の非営利団体法の下で非営利の科学又は教育団体の条件を満たす団体
(D)米国に所在すると仮定した場合に、前記(B)又は(C)の条件を満たすであろう外国の非営利団体
「大学」は文部科学大臣の認可を受けているので明確です。「高等教育機関」の明確な定義はないとのことですが、高等教育資格承認情報センターのウェブサイトで検索できるので実務上問題にはならないでしょう。
米国内の第501条(c)(3)団体は内国歳入庁(IRS)に免税申請をして承認を受けているので明確です。これらの団体自身が免税されていると共に、これらの団体への寄付も税控除が認められます。第501条(c)(3)団体にはパブリック・チャリティ(PC)とパブリック・ファウンデーション(PF)があり、前者の方が税制上優遇されています。免税団体はIRSの「Tax Exempt Organization Search」ウェブサイトで検索できます。PCとして登録されている世界トップレベルの研究機関の例としては以下の団体が挙げられます。
Whitehead Institute for Biomedical Research
Howard Hughes Medical Institute
Childrens Medical Center
Scripps Research Institute
Fred Hutchinson Cancer Center
SRI International
Dana-Farber Cancer Institute
これらに対応する日本の研究機関としては「公益財団法人がん研究会」が挙げられます。一般財団法人が内閣総理大臣又は都道府県知事から公益認定を受けることにより公益財団法人となり(公益法人認定法第3条、4条、7条等)、法人税法第6条に基づいて法人税非課税となるので、米国の第501条(c)(3)団体に対応すると考えてよいでしょう。但し、内国歳入法第501条(c)項(3)号に記載される「目的」と、公益法人認定法第2条第4号の「公益目的事業」とは完全には一致しない点に注意が必要です。
では、公立の研究機関はどうでしょう。米国特許弁護士の友人に日本の「国立○○研究センター」が小規模事業体に該当するか質問すると、米国国立衛生研究所(NIH)との類推から異口同音に「国立なので小規模事業体には該当しないと思う。」という回答が返ってきます。確かに、NIHや米国疾病管理予防センター(CDC)のような米国の国立研究機関は第501条(c)(3)団体ではありません。アメリカ合衆国保健福祉省の一機関なのでそもそも連邦税は賦課されず、免税団体となる必要もありません。また、通常これらの国立研究機関の特許出願は米国が出願人になるので、米国特許庁に料金を支払う必要もありません。日本の国の試験研究機関が、かつては各省庁の管轄下にある「国の行政機関(省庁の内部部局や施設等機関)」であった状況と似ています。しかし、現在これらの多くが、国会の法律により設立されたものの国とは独立した法人であるという状況をどう考えるべきでしょうか。
日本の公立の研究機関の多くは「公共法人**」に該当し(法人税法第2条第5号)、法人税を納める義務がないとされています(同法第4条第2項)。従って、IRSあるいは内閣総理大臣等の行政庁の認定を受けて第501条(c)(3)団体あるいは公益法人になるという状況とは類似していません。一方で、小規模事業体に該当する外国の非営利団体を規定する前述の37 CFR § 1.27(a)(3)(D)は「外国」の行政庁による認定プロセスを要件としているわけでもありません。あくまでも「米国に所在すると仮定した場合」の話なのです。
日本の「公共法人」である研究機関が米国に所在すると仮定する際に、日本の法人税法第2条第5号に対応する条項が内国歳入法に規定されることまで仮定するのであれば、これらの研究機関は第501条(c)(3)団体にはならないでしょう。一方で、そのような条項の規定がされないのであれば、IRSに免税申請をして承認を受けることにより第501条(c)(3)団体になるかもしれません。
ところで、ワシントンDCの中心地区にあるスミソニアン国立博物館群や国立動物園を運営するスミソニアン協会(Smithsonian Institution)は、同協会の公式ウェブサイトによると、ジェームズ・スミソンの「ワシントンに『スミソニアン協会』と称する機関を設立し、人々の知識を増進し普及させること」という遺贈を受け入れた連邦議会の法律に基づいて設立されました。同協会は連邦政府と密接に関係し、司法長官、副大統領、3名の上院議員、3名の下院議員、及び連邦議会の共同決議により指名された9名の一般市民により理事会が構成されています。しかし、スミソニアン協会は政府の一機関ではないと裁判所に判断されているとのこと。そして、スミソニアン協会は第501条(c)(3)団体のパブリック・チャリティなのです。米国政府に科学的助言を行うことを使命とする米国科学アカデミー(National Academy of Sciences)も連邦議会の法律により設立されましたが、第501条(c)(3)団体のパブリック・チャリティとなっています。
スミソニアン協会や米国科学アカデミーの例を見ると、日本の「公共法人」である研究機関もその設立目的や運営形態次第では、それらが「米国に所在すると仮定」した場合に第501条(c)(3)団体に該当するであろうと判断される可能性は否定できないように思われます。
なお、免税申請をIRSが審査する際にはパブリックサポートテストと呼ばれる幾つかの数式(例えば、[(寄付金や助成金など支援金の額)/(総収入)]≧(1/3))が使われます。収入の一定以上が一般寄付や政府・公的補助からなるという要件を満たすことにより、広く支持されており、公益性があると判断されるとのことです。
詐欺的に小規模事業体として割引を受ける又はそれを試みることは米国特許庁に対する詐欺行為又は未遂とみなされ(37 CFR § 1.27(h))、不衡平行為で権利行使不能となってしまう可能性があるので、慎重に検討したうえで判断する必要があります。一般的には、被疑侵害者が特許権者の「欺く意図」を立証するハードルは高いとされていますが、小規模事業体に該当しないことが容易に判断できたはずであるにもかかわらず割引を受けたという状況があれば、「欺く意図」が推定されてしまう恐れがあります。判断のプロセスと根拠をしっかり記録しておくことが必要です。
(免責事項:本コラムは何れかの法人等が米国特許法施行規則の小規模事業体に該当するか否かについての助言を提供するものではありません。執筆者TN)
*内国歳入法第501条(c)項(3)号
宗教的、慈善的、科学的、公共の安全のための試験、文学的、または教育的な目的、あるいは国内または国際的なアマチュアスポーツ競技の振興(ただし、その活動の一部が運動施設や用具の提供を伴わない場合に限る)、または児童や動物に対する虐待の防止を唯一の目的として組織され、運営される法人、およびあらゆるコミュニティ基金、基金、または財団であって、その純収益のいかなる部分も私人の株主または個人の利益に帰属せず、その活動の相当部分が宣伝活動を行ったり、その他何らかの方法で立法に影響を及ぼそうとするものではなく((h)項に別段の定めがある場合を除く)、かつ、公職の候補者を支持(または反対)するいかなる政治運動にも参加または介入(声明の公表または配布を含む)しないもの。
**公共法人(抜粋)
・国立健康危機管理研究機構
・大学共同利用機関法人(人間文化研究機構(国立歴史民俗博物館、国文学研究資料館、国立国語研究所、国際日本文化研究センター、総合地球環境学研究所、国立民族学博物館)、自然科学研究機構(国立天文台、核融合科学研究所、基礎生物学研究所、生理学研究所、分子科学研究所)、高エネルギー加速器研究機構、情報・システム研究機構(国立極地研究所、国立情報学研究所、統計数理研究所、国立遺伝学研究所、データサイエンス共同利用基盤施設))
・独立行政法人(国立研究開発法人(情報通信研究機構、物質・材料研究機構、防災科学技術研究所、量子科学技術研究開発機構、農業・食品産業技術総合研究機構、国際農林水産業研究センター、森林研究・整備機構、水産研究・教育機構、産業技術総合研究所、土木研究所、建築研究所、海上・港湾・航空技術研究所、国立環境研究所、新エネルギー・産業技術総合開発機構、科学技術振興機構、理化学研究所、宇宙航空研究開発機構、海洋研究開発機構、医薬基盤・健康・栄養研究所、日本原子力研究開発機構、国立がん研究センター、国立循環器病研究センター、国立精神・神経医療研究センター、国立成育医療研究センター、国立長寿医療研究センター、日本医療研究開発機構))
・福島国際研究教育機構
